水族館(アカリウム)

  • 2011.12.31 Saturday
  • 08:31
 水族館(アカリウム)にタカアシガニを見てゐしはいつか誰かの子を生む器(うつは)/坂井修一

 昨日まで数日、沖縄本島を旅してきました。美ら海水族館を訪れて、深海の生物の水槽を見ていたとき、上記の歌が浮かんできました。この歌は有名なのでご存じの方も多いと思います。私にとって、ときどき思い出しては想念をめぐらす歌の一つです。
 といって特に好きなわけではないのですが、ある種引っかかりがあるために忘れきれない歌といいますか。
 
 以下、私の勝手な読みを書きます。
 たぶん作中の人物は青年といっていい年ごろの男性だろうと思います。彼は女性(おそらく恋人のような)と水族館に来ています。女性は背が高く髪が長く、暗い深海のような静謐な雰囲気を身にまとっているかもしれません。そして彼女は水槽の中のタカアシガニを見ている。青年はその彼女を見つめ、その彼女も「いつか誰かの子を生む」母性を持つのだ、と感じています。
 
 そういう歌です。私の「引っかかり」は、作中の男性の、女性に対する感情が読めないところからきています。
 恋人だとして、愛情があるとして、この距離の取り方はどうだろう、と思うのです。理解が難しいのです。

 タカアシガニは深海の生物です。「生きている化石」と呼ばれ、比較的古い時代から今の形を保っていた生き物のようです。産卵するときだけ浅い水域に上がってくるようです。近くの水槽には、深海の水と同じ温度の海水に触れるコーナーがあり、確か9度という表示がありました。ひやりとする冷たさでした。
 
 蟹は西洋占星術の蟹座と私の中ではつながります。母性は蟹座の管轄の一つであり、蟹座の支配星の月は、まさに「母」の象意があります。
 しかしこの蟹は、深海を模した冷たい水の中に生きており、水族館の水槽の分厚いガラスに隔てられています。見つめる女性は、母になる能力と可能性を宿してはいますが、蟹とは隔てられたままです。
 そしてその女性を見つめる男性は「いつか誰かの子を生む」器として彼女を見ています。この表現から、私は、「この男性は彼女が自分の子を生む気がしていないんじゃないかなあ」と感じてしまうのです。「いつか」「誰か」という不確定な言葉は、厳然たる真実です。それは、水槽の分厚い透明なガラスそのままです。女性とタカアシガニの距離は、そのまま男性と女性にも当てはまるような気がします。
 しかしだからこそ、彼女の中の母性が際立ったものとしてここに描かれているかもしれません。
 それがこの歌の魅力なのでしょう、たぶん。

 あるいは彼と彼女はとても年が離れているのかもしれません。叔父と姪のような関係を想像してもいいのかもしれません。それだと男性の感情もまた違った読みができます。

 さて、このような歌を読む作者は、いったいどんなホロスコープを持っているのでしょう。
 出生の惑星や感受点の中に、火(の元素)は少ないだろうなと思いました。火があったら、見つめずに抱き寄せいているかなと思います。いつか誰かの、とは言わないと思います。風があるな、天秤があるな、とも思いました。観察しているからです。
 
 作者の坂井修一氏は、1958年11月1日の生まれでした。蠍座でした。
 ああ、なんだ、彼自身が、深海の星座の人だったのです。
 太陽蠍、月は正午で双子の終わり、少し遅ければ蟹です。水星蠍、金星蠍、火星牡牛の最後。木星蠍、土星射手。そしてドラゴンヘッドが天秤の後半でした。
 蠍の塊のような人です。だから簡単に対象には入っていかなかったのだと思います。深く静かに、対象の一つの核を、見つめていたんだなと、妙に納得するものがありました。そして自分の思いもまた、容易にうかがわせないのです。蠍の人は。

 こうやって書いていると、歌からは逆に離れていく気がするのはおかしなことです。でも気がすむのです。おおみそかですね。みなさま、よいお年をお過ごしください。
 

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